夏の夜のきらめきは美しくて苦手だ。
ふと寝苦しさに目を覚まして枕元の時計を確認してみれば、AM2:43。
まだ、3時前。
8月にさしかかろうとしているだけあって、夜も暑くて寝苦しい。その証拠に、じんわりと汗ばんでいる肌の感触が気持ち悪い。
寝なおす気にもならなくて、窓から外を眺めてみれば、いつもより外が明るいような。網戸を開けて、静寂につつまれた夜に少し身を乗り出してみると、まん丸な月がそこにいた。どこかの誰かが、今日は満月だといっていたのを思い出す。
夏の夜は、どこか切ない。何があるわけでもないのに、どうしてだろう。胸のなかに微かな痛みがはしったような感覚がして、洋服をぎゅっとつかむ。あっという間に過ぎ去っていくこの季節は、この夜は、どうも苦手だ。
それにしても、きれいな満月。
深い夜を照らす月明かりに誘われるように、そっと玄関の扉を開けて、外へ出る。歩いて10分もしないうちに、街灯がひとつもない農道に差し掛かかる。虫の音と遠くを走る車の音、そして、自分の足音だけの世界。
ゆっくり歩みを進めながら足元に目を向ければ、満月の月明かりで、地面に自分の影ができている。これは夜の追いかけっこだな、と思って、小さく笑みがこぼれた。
空を見上げてみれば、いつもより一層の存在感をはなつ月、その明るい月に負けないようにきらめく星々。はるか向こうには、高層ビルの人工的な明かり。夜の世界は、さまざま光で溢れている。
真夜中は、なぜこんなにきれいなんだろう。
あまりのきれいさに涙があふれそうになって、ぐっと奥歯をかみしめながら、上を向く。視界はにじんでいるのに、月や星のきらめきが涙に反射して、余計にきらめいて見える。夜は深いのに、そこにこわさなどなくて、ただやさしい。
これだから夏の夜は苦手だ、と改めて思う。寝苦しさに嫌気がさして、夏なんかはやく終わってしまえなんて気持ちが、どこかにいってしまったじゃないか。
泣く気なんて全くなかったのに、夏の夜の切なさと、太陽とはまた違う明るさのやさしさに包まれる心地よさを知ってしまったら、後戻りはもうできない。
この真夜中のきれいな世界の散歩が、夏の日課になりそうだな。
そんなことを考えながら、頭上できらめく幾千の明かりに見守られ、自宅へと足を進めた。