人間交差点

あったことやなかったこと、ありもしないことやあってほしいこと。

触れた指先から身体にはしる甘い痛みなど、知りたくなかった。

 

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ふたりでは、会わないようにしていた。

 

失敗したな、と思う。これまで、ふたりきりにならないように、事あるごとに理由をつけて逃げてきたのに、今日は逃げられそうにもない。

 

目の前にいる彼は嬉しそうに、確かに、熱のこもった目で私を射抜く。そう、この力強い瞳に引き込まれたら、自分にかけた鎖の鍵を簡単に外してしまいそうになるから嫌だったんだ。

 

彼が嫌いというわけではない。むしろその逆で、惹かれて焦がれて胸がチリチリと焼けるような痛みに襲われるくらいに、好き。

 

だけど、熱のこもった瞳で私を見つめるのに、それをうまく隠して、まるで何事もないように振る舞う姿が、ずるいと思った。

 

好きだと言ってしまったら、負けたような気がして悔しくて、だから私も何も気がついていませんと言うような顔をして、ふたりにならないようにがんばった。

 

なのに、なのにだ。そんな私の小さなプライドと努力を、彼は簡単に飛び越えて、いま目の前にいる。

 

熱のこもった目で見つめられ続けて、気にならない人なんているのだろうか。少なくても私は、けろっと落ちてしまった。

 

どうして、今日に限ってこんな目にあうのだろうか。いるかいないかも分からない神さまに、ありったけの恨みをこめて心で悪態をつく。

 

 

どうやってこの場面を切り抜けようかと考えていると、彼との距離が近くなったことに気がついて、はっとした。

 

いつの間にか伸ばされた彼の指先が、私の指先に触れた瞬間、甘い電流が全身を駆け巡る。

 

触れた指先が強く絡まって、周りの音が消え去ったかのように、ふたりの息遣いだけが静かに木霊した。

 

あまりの甘い痺れに、くらくらする。

 

こんなの、言葉にしなくても、好きだと言われてるの同じじゃない。それも、相当の好き。

 

彼に聞こえないように、熱のこもったため息をそっと吐く。 

 

もう、私の負けです。

 

今までの無駄な抵抗はなんだったんだろう。白旗を上げるしか、私の選択肢は残されていないらしい。

 

徐々に近づいてくる彼の顔をぼんやりと眺めながら、心の私がそっと白旗をふっている姿が見える。

 

さようなら、私のちっぽけなプライドさん。

 

唇が重なる直前、そっと、目を閉じた。