下駄の音だけが鳴っている
ぴかぴか、しゅわしゅわと四方八方に光を伸ばした線香花火が、不意にぽつっと落ちた。
4年前の夏もそんなふうにして儚げに、でもめいっぱい光を散らしたのち、突然命を落とした。わずかでも指を動かしてはダメだと気をつければ気をつけるほど、その命はゆらゆらとゆれて、ふたりでハラハラしたものだ。
大好きな男の子がいた。高校1年の夏祭りで十数年ぶりに再会し付き合うことになったわたしたちは、家の近くの公園で線香花火をした。帰り道、家までの100メートルのあいだだけ小さく手をつないだ。
恋は線香花火によく似ている。きらきら輝くその一瞬の美しさには、どうしたって抗えない。たとえばそれが一瞬でなければ、こんなにも魅了されはしないだろう。
美しい一瞬のために、甘美な一瞬のために、わたしはこれからも恋をするのだし線香花火を手に取るのだ。
彼がどんな顔をしていたのか、自分がどれほどドキドキしていたのか、今となっては思い出せない。ただ、あの時の下駄の音だけは、今でも耳奥で微かに鳴っている。